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2011年3月 Archive

福島原発事故を考える(1)  110328

  • Posted by: 田中 昇次
  • 2011年3月28日 14:20

福島原発事故を9001規格の面から考える

3月11日の大地震(東北地方~関東地方に及ぶ大震災)の発生から2週間以上経過しましたが、被害状況について確定した情報が得られない状況で、本当に大きな災害だったと知らされます。

地震にともなって、東京電力の福島第一原子力発電所では過去に類を見ない災害が発生し、収束の見込みが全く立っていない状況です。この原発事故を9001規格の観点から考えることが適切かどうかわかりません。31000規格(リスクマネジメント)の観点から考えるか、BCM(事業継続)の視点で議論するのが適切なのかもしれません。状況が落ち着いた時点で、当然リスクマネジメントの根本的な見直しを東京電力は行うでしょうが、今回はあえて9001の項目で考えてみようと思います。

今回の災害との関連性が最も強い項目は7.3.1項「設計開発へのインプット」である、というのが田中の結論です。

原子力発電所全体の設計を行うには膨大な量のインプットがあると考えます。9001規格では、それらを4つの概念に区分して考えようとしています。極端な言い方をすると、それぞれの項目が無数の枝項目に分かれるのです。
以前の類似した設計から得られた情報(c項)と、設計・開発に不可欠なその他の要求事項(d項)をどこまで範囲を広げて考えたか、が今回のポイントだったように思います。地震の規模が想定外だったとか、そこまで考えていたら設計できない、といった言葉をマスコミは伝えています。
9001規格は、法令・規制要求事項(b)と機能・性能に関する要求事項(a)さえインプットしていればよいとは言っていません。耐震性に対する基準は、一般建造物に対しても大きな地震を経験するごとに厳しくなっています。その基準ギリギリのところで設計している建物は少なく、安全サイドに設計しているはずです。原子力発電所という特殊な施設でありながらギリギリの設計になっているように感じたのですが、今回のできごとがとりあえず収束した段階で、真剣な議論をするべきでしょう。

3月23日付けの日本経済新聞には、22日の参議院予算委員会で斑目春樹原子力安全委員会委員長の発言が載っていました。「福島第一原子力発電所の事故は想定を超えたものだった。今後の原子力安全・規制行政を抜本的に見直さなければいけないと感じている。」「非常用ディーゼル発電機が2個とも起動しない事態を想定せずに設計を行っていたことについて、十分反省している。」「原子力を推進してきた一人として、個人的には謝罪する気はある。」といった内容です。
4月4日付けのアエラには、斑目氏の前任者である、鈴木篤之氏(現在日本原子力研究開発機構理事長)が「大変なことが起きてしまった。申し訳ないと思っている。」と述べたとされています。

言葉上は「十分反省」「申し訳ない」となっていますが、それ以外の部分では、本当に反省しているように感じられない、私たち専門家にまかせておけというニュアンスに響くのが、気になります。

高校生と品質管理教育  110324

  • Posted by: 田中 昇次
  • 2011年3月24日 13:52

高校生と品質管理教育

「青森県立弘前工業高校1年生全員が品質管理教育を受講」という記事が、日本規格協会のHPに載りました(2月21日付け)。
当たり前のような気もしますが、実は画期的なことなのです。旋盤の使い方であるとか、図面であるとか、工業製品を実現するために必要な技能・知識はこれまでも沢山詰め込んできたのでしょうが、管理とか、製品の質ということについて、系統だてて教育する余裕(カリキュラム)がなかったのでしょう。
高校生にしてみれば負担増だと思いますが、まだ頭が軟らかい時に品質管理を勉強するのはよいことだと思います。統計に関しては中学生から概念を植え付けようという動きが始まっています。ゆとり教育だなんだといって、国の教育方針は揺れ続けていますが、事実をどのように収集し、それをどのように解釈/判断して次の活動につなげるかという流れを早い時期に体得することは、理系文系という枠を超えて重要なことだと思います。

品質管理の手法は、業種・業務の種類によらず共通のものですから、業務の標準化以前の、共通言語になってもよいものです。社会全体として品質管理手法が共通言語になった場合、人材の流動化があっても新たな勤務先での教育の手間が一部省けて、早期に戦力になる可能性が開けます。
田中が社会人になったとき、会社では「デミング賞」を取得すべく、社内教育に力を入れていました。データでものを言おう、とか、5W1Hで話をしよう、とか、全社員が勉強を始めた時期だったので、この部分に関しては先輩と対等に知識を増やしていったので、対等に話ができてラッキーでした。(当時、デミング賞は、全社レベルで品質管理を実践しているお墨付きとして最高位のものでした)

弘前工業高校の話に戻しますと、1年生全員がQC検定4級合格を目指すという短期的な目標をもち、さらに上級合格も、との説明になっていますが、合格という結果だけでなく、合格を目指してどのように努力したのか、空論としての計算だけでなく、身近な事象をデータ化し、解析し、次の改善/定着活動につなげることができるとよいと思います。
「力量」の定義は「実証された個人的特質、並びに、知識及び技能を適用するための実証された能力」です。検定に合格していることは、関連する知識を持っていることを証明し、試験問題を正しく解く能力を実証してくれますが、暗記した知識だけでなく、身近な事象にどう取り組むかは合格後の精進にかかっています。

第一歩を踏み出した、弘前工業高校1年生にエールを送ります。また、今回の大震災の影響ができる限り小さく、可能な限り早期に復興して、授業に専念できることを祈ります。

地震災害に伴うJABの対応  110318

  • Posted by: 田中 昇次
  • 2011年3月18日 17:56

地震災害に伴うJABの対応⇔認証の維持

"マネジメントシステムの認証を受けた組織の皆様へ"と題してJABが東北地方太平洋地震の災害に伴う対応を通知しました。

認証を受けた後の最初のサーベイランスは、初回認証の第二段階審査最終日から12ヶ月を超えずに実施されなかった場合、認証が失効するルールになっています。このこと自体は変更ないのですが、「適切な期間内」に審査が実施されれば(認証は失効していますが)第一回のサーベイランスとみなす、としています。また、「適切な期間」とは「おおむね3ヶ月以内」であるとしています。
これによって、認証機関側、組織側いずれの事情によるものでも救済処置がされることになりました。

再認証審査の場合も同様です。有効期限前に認証が更新されていない場合に認証が失効するルールは変わりませんが、失効後「適切な期間内」に審査が実施されれば「認証の更新のための審査」とみなす、としています。また、「適切な期間」とは「通常6ヶ月を超えない期間」であるとしています。

自然現象による、やむをえない失効に限定されるのは当然でしょうが、「適切な期間」について具体的に示されたことは画期的と言えるのではないでしょうか。阪神・淡路大震災は1995年1月で、まだ認証数が少なかったので、どのような通知がされたか記憶にありませんが、今回3月15日付けで通知されていますから、素早い対応だと言えます。
当事者にとって頭の中は、事業継続に向けた現状把握と復旧のことだけ、という状況がしばらく続くと思いますが、一段落した際にこの情報が伝わって、認証の継続につながることを祈ります。

失効後3ヶ月以内に実施する第一回サーベイランス、失効後6ヶ月以内に実施する更新審査のいずれの場合も、「このたびの災害に伴って組織がマネジメントシステムに対して行った事項について」の確認が行われるとの追記があります。"マネジメントシステムの認証を受けた組織"は、この通知に直接アクセスする余裕はないと思いますから、認証機関が適切なタイミングで組織に伝えることになるでしょう。認証機関によっては既にホームページ上で、被災された組織に対する考え方(延期、相談に応じる等)を表明しています。

紺屋の白袴  110316

  • Posted by: 田中 昇次
  • 2011年3月16日 14:05

3月11日に東北地方太平洋側を中心に、広範囲にわたる大地震がありました。被災された方々にはお見舞い申し上げます。被災後92時間経ってから救出された明るいニュースもありますが、従来の予測以上の津波による被害が、日を追うごとにわかってきました。被災された方々には、一日も早く平常心を取り戻していただいて、新たな生活設計ができることをお祈り申し上げます。また、亡くなられた方々のご冥福をお祈りするばかりです。

今回のテーマは、この大地震(報道機関によって名称が統一されていません)の影響で発生した福島原子力発電所です。紺屋の白袴というのは、「和服の生地を染める仕事をする人が、顧客の注文を優先するために、自分の衣服は白無地のものでいること」を揶揄する表現です。患者の治療はできるのに、自身の健康を管理できない医師を揶揄する言葉と同様です。

まだまだ流動的に、しかも危機と直面する状況で事態が推移している段階なので、コメントすることは避けるべきなのかもしれませんが、東京電力の体制はお粗末という他ありません。きっかけは大地震とそれに続く津波という自然災害かもしれませんが、危機に対する備えがきわめて不足していることが明らかになりました。炉内温度を一定以下に保つための冷却水を供給するポンプが動かせなくなったのです。一次的な原因としては外部からの送電も来ず、非常用発電機も動かせなかったからと説明されています。
発電所で電気を利用できないとは、紺屋の白袴でしかありません。

不適合に対する是正処置を行うには、真の原因を突き止めて、その原因に対して手を打つことが不可欠です。なぜ非常用発電機を動かせなかったのか、そもそも非常用発電機を日常どのように管理していれば今回のようなことが起きなかったのか、という考え方をしないといけません。マネジメントの問題としてとらえる必要があります。

現時点で行うべきことは、水素爆発であるとかメルトダウンを避けるための活動(9000/9001の概念では「修正=検出された不適合を除去するための処置」)ですが、喉元過ぎて熱さを忘れることがないように、このブログを記録として残します。
紺屋の白袴とか医者の不養生は本人とその周辺の人々に影響があるだけのことですが、原子力発電所における災害は何千万人に影響が起こるだけでなく、生涯つきまとう健康被害につながりかねないことですから、真剣に取り組んでくれることを願っています。

参考までに、東京電力がQMS、EMSに取り組んでいるかをJAB(日本適合性認定協会)のホームページで探しましたが、JABに登録する形では、数拠点が取り組んでいるだけです。リスクマネジメントを含め、マネジメントシステム的な考え方を組織全体でしていれば、少しは違うのではないかと考えています。

26000規格 110308

  • Posted by: 田中 昇次
  • 2011年3月 8日 14:52

26000規格(社会的責任に関する手引)

2011.2.11付けの「TOPICS」と類似の話題です。
社会的責任に関連して、日本ではECS2000という規格を麗澤大学の高巌先生を主体に審議制定してきた経緯があります。10年以上前に、社会的に名の通った企業の不祥事が相次ぎ、企業倫理・社会的責任という観点から審議したものです。社会的責任(SR)は民間企業だけでなく、基本的には全ての組織に求められているものです。
ISOで種々議論を重ねて26000規格は2010年に発行されました。

2010年10月にIAF(International Accreditation Forum)の総会がありました。IAFはISOとは独立した組織で、認定/認証活動に対する基準を国際的に審議する場です。その中で、26000規格に関しては、認証という制度がないことを明確にしました。次のように表現しています。「26000規格に対する認証のプロモートや認証授与を行わないよう、各認証機関は強く求める。市場において間違った使用や、認証の要求があった場合、各認証機関はその旨をISO事務局に報告する。」

上のような経緯で発行された規格を実践することに対するお墨付き(認証制度)がない、ということはISOの目指すマネジメントシステムとしては画期的と言えます。企業不祥事と関連してマネジメントシステム認証の一時停止を行うことに関しては0908012で少し述べました。これはどちらかというと別件逮捕のようなものだと感じていますが、26000規格は第三者認証対象外なので罰則的なことが期待できないのは同様で、いたしかたないことです。

社会的責任と法的な適合性を混同していると感じることがよくあります。新聞を賑わすというか汚しているというか、政治の世界で、法律上罰せられなければOKという解釈をしているケースがありますが論外です。
社会的責任イコール法的責任であるならば、なぜISOという世界で議論/制定する必要があるのでしょうか。国会議員は以前、「選良」という別名で呼ばれていました。選良という言葉は"elite"に対応する言葉で、誰からも尊敬されるような人柄と実行力(力量)を併せ持つ人を指します。今は、そのような言葉を使ったら、言葉が腐ってしまうか気を悪くするからか、使われなくなりました。

社会的責任というのは、法人として"elite"であるための、組織の規範(社会経済活動に関する規準/指針、ふるまいに関する制約)と考えればよいと思います。組織は複数の人から構成されているので、組織人の中には不埒なことを考えたり実行する者が紛れ込んでいる可能性を否定できません。そういう芽(可能性)を、組織としてどのように摘みとるのかが、26000規格の役割のように思います。

日本相撲協会が取り組むといいかもしれません。

なお、IAFの見解に続き、ISO自身も、ISO News, Ref. 1378(2010-11-30)で、認証制度がないこと等についての注意文書を発行していることが、JAB(日本適合性認定協会)のホームページ(3月3日付け)に掲載されました。

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