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地味な仕事  110630

  • Posted by: 田中 昇次
  • 2011年6月30日 16:41

地味な仕事

いわき市に「アクアマリンふくしま」という海洋科学館があり、3月11日の地震や停電の影響で多くの水棲動物の命が消えました。20万匹とも言われています。その中で、他県の水族館の協力で避難することができた動物もいました。千葉県の鴨川シーワールドに避難していたゴマフアザラシの雌が、4月7日に生まれた子アザラシと一緒に、復旧作業中のアクアマリンに戻って元気に泳いでいるというニュースが流れました。
実は昨年6月に、田中はこの海洋科学館に行きました。100723の末尾で書いたことがそれで、科学博物館のボランティア仲間が研修を兼ねて旅行した時です。アザラシの顔まで覚えていませんが、助かってよかった、明るいニュースです。

この旅行の際、つくばにある地質標本館にも寄りました。独立行政法人産業技術総合研究所というバカでかい組織の中で、地質調査情報センターや、110613で紹介した活断層・地震研究センターとリンクして地味な仕事をしています。館の説明資料(2010年春の特別展)をいただいたのですが、最近久しぶりに手にとってみると、この欄で何回か話題にした貞観津波についても記述がありました。1年以上前に作成された立派な資料で、当然内容は吟味されたものです。

110613で「地質ニュース」624号(2006年8月号)「仙台平野の堆積物に記録された歴史時代の巨大津波―1611年慶長津波と869年貞観津波の浸水域―」を紹介しました。今回は地質標本館の資料でも引用している、「石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション」という報告(「活断層・古地震研究報告」誌、No.8,pp71-89、2008年)を紹介したいと思います。この報文は、「地質ニュース」624号や、東北大学の箕浦幸治教授の報告内容を踏まえて実施したシミュレーションです。

津波による堆積物の観察から、貞観津波の下部にも数枚の津波堆積物が発見され、巨大津波の繰り返し間隔は600~1300年程度という、箕浦教授の説を支持しています。シミュレーション結果と現地調査結果の一致度が高いことから、堆積物が発見されていない、さらに海岸線から離れた場所にも津波が浸水していた可能性が高いことを示唆しています。
類似の研究を、仙台湾だけでなく、岩手県、福島県、茨城県についても必要である、と結んでいることが象徴的です。
今回のような大規模な被害を50年後、1000年後に起こさないためには、このような地道な研究を継続し、その結果を原発にも適用することが、今回亡くなられた方々、行方不明の方々、長期間にわたって避難を余儀なくされていらっしゃる方々への追悼/お詫びになるのだと思います。

活断層・地震研究センターのホームページには次のように記されています。「当センターでは、数年前から仙台平野を襲った貞観地震に伴う津波の研究を行ってきましたが、その結果が地域の防災対策に反映される前にこのような大震災が発生してしまい、残念でなりません。」
最近、原発事故をきっかけとして、科学者・技術者に対する批判があるようですが、ここに書いたような地道な仕事をしながら、悔やんでいる科学/技術者もいるということを知ってほしいと思います。

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