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2010年4月 Archive

守・破・離  100430

  • Posted by: 田中 昇次
  • 2010年4月30日 13:35

守・破・離

歌舞伎座が全面改築のため、今日いっぱいで当分閉場となりました。3週間ほど前に1年ぶりで行き、一幕だけ立ち見をしました。演目は「助六由縁江戸桜」でしたが、すごい熱気/人気でした。

守・破・離(しゅ・は・り)は武道、能、歌舞伎などで使われている概念です。いろいろな説明の仕方があるようですが、伝統のある世界では技術や演技を口伝に近い形で代々受け継いできています。まず、先輩・指導者(時には自身の親)からその時点での正統な技を正確に受け止め、修得します。次の段階では自分なりの工夫を加えたり、時代にそぐわないものを切り捨てます。最終段階では、自分自身が研鑚して得たものを発展させて独自の境地を開拓していくのです。そのようなことを代々繰り返して、伝統の発展を目指します。

ISOマネジメントシステムの世界で考えてみたらどういうことになるでしょうか?
まず、「守」の段階ではISOの規格を正しく理解するために、先輩・指導者に相当する人が必要となります。規格そのものは文書化されていますから、口伝でもなんでもないのですが、先輩・指導者が誰なのかによって、理解度も、事実として受け止める内容も違っている可能性があります。ISOのマネジメントシステムは歌舞伎などと比べて伝統といえるほどの期間が経っていないせいなのか、伝えていく流派が無数にあることが原因と考えられます。

次が「破」なのですが、最初の段階から破調になっている場合には「守」「破」の区分など無意味です。しかも、「自分なりの工夫」が良い方向に進めばよいのですが、あらぬ(規格の真意と一致しない)方向に行くと大変なことになります。
認証機関による審査が、このような状況を是正する役割を持っています。認証機関自体あるいは審査員の判定には微妙な差があるのも事実ですが、ここでは考えません。審査員によっては「破」をいっさい認めず、「守」だけを押しつける場合がありますが今日のテーマではありません。
自分たち(コンサルタント/アドバイザー)の役割はなんだろうと自問してみます。人さまざまでしょうが、田中は「コンサルタント=情報提供者」と位置付けて活動してきました。教えるとか指導する立場ではなく、「この分野ではあなたより少しだけ知っていることが多いので、私の知っている情報をお伝えします。この情報をどう役立てるかは、あなたの意思次第です。」という立場です。
提供している情報に誤りがあってはいけませんから、①新しい情報をできるだけ初発の情報(JAB:日本適合性認定協会。時にはISO)から入手し、②情報の解釈については自分で考え、③念のため、複数のルートから入手した解釈を参考にするように努めています。
新しい情報を入手すると、その後でクライアントに提供する情報は確実に変化します。

「離」はなんでしょう。離れていくけれども伝統をぶち壊すのとは違います。孔子は「心の欲するところに従いて矩(のり)を踰(こ)えず」とおっしゃいました。でも、それは聖人君子が70歳になっての話で、凡人、凡組織(おかしな用語ですが、うまい言葉が見つからないので)にとってはかなわぬ夢なのでしょうか。

幸か不幸か、9001の思想(規格要求事項)はあるサイクルで変化し(改定され)、自分で努力しなくても「守」(レベルアップした要求事項に追随)をきちんとやっていれば形はつきます。ただそれでは単に引きずられているだけですから、独自性の追求(自分たちの組織に合ったシステムを求め続けること・・・システムの継続的改善と同義語と考えてください)は不可欠だと思います。
9001への適合は顧客が喜ぶだけで、自組織にメリットをもたらすには9004への取り組みが推奨されるようになりました。最終的には、ISO規格に頼らない独自の道を求めることがベストなのでしょう。我が道を歩んでも9001規格には適合しているという、孔子様を目指してください。

9100規格  100422

  • Posted by: 田中 昇次
  • 2010年4月22日 11:58

9100規格

「品質マネジメントシステム―航空、宇宙及び防衛分野の組織に対する要求事項」に取り組み、規格解説のテキストを完成させました。4月6日付けのTOPICSにある通りです。
完成度は自己評価で合格点ギリギリといったところですが、9001と比べると大作です。手強い、要求事項がギッシリと詰まった規格です。

田中はタイヤ製造業に在籍中に「航空機用タイヤの品質保証」を4年間担当しました。航空機用タイヤに要求される性能(機体重量を支える強度、最大速度、上空/地上の温度差等)は、地上だけを走るタイヤに比べて格段に厳しく、航空機用タイヤを製造しているメーカーは極めて限定されています。
ただ、市場規模が小さいこととタイヤが必要とされる時間が離着陸時に限定されていることから、注目度が低いのが悩みでした。ちなみにF1用タイヤが注目度ナンバー1でしょう。
JRCAという、品質マネジメントシステム審査員の登録(要員認証)をする組織がありますが、「航空機用タイヤに関する経験」を「産業分野としての航空宇宙経験」として認めてくれません。

話を元に戻さないといけませんが、9100規格に新規に取り組まれる組織が増えつつあると聞いています。いいかげんに作っても良い製品などはありませんが、航空機用の部品に要求される性能(バラツキの小ささを含む)は厳しいものがあります。しっかりとした計画・設計に基づいて、管理された状態で製造プロセスを実行する必要があります。
規格の上でも9001に上乗せした多数の要求事項が定められています。一例としては、キー特性があります。キー特性の定義は『そのバラツキが、製品の取り付け、形状、機能、性能、耐用年数または製造性に重大な影響を与え、バラツキを管理するために特定の処置が必要な属性または特性』とされています。
キー特性は、ボーイング社が777機の開発に当たって、1991年10月にサプライヤーを集め、部品に対する新しい品質管理仕様書(D1-9000:Advanced Quality System)を提示した際に登場した概念で、製品性能に影響が大きい特性を選定し、検査でなく工程で保証することを要求したのが原点です。ボーイング社は、このD1-9000:AQSを作成するに当たって、日本の優良企業にミッションを送って調査(Japan as No.1という本が読まれていた頃です)⇒良いところを社内の品質管理システムに展開して数年の実績を積み重ね⇒良いものだと確信⇒サプライヤーに要求という手順を踏んでいます。元をたどれば原点は日本にあるわけで、その時はあまり注目していませんでした。9100規格はD1-9000をベースに発展した規格なので、少しずつ概念が拡大されて要求内容は厳しくなっています。

厳しい要求事項に対して、いかに重すぎないQMSとするか、コンサルタントとしては腕の見せ所と考えています。4月21日付けの週刊WING(航空新聞社発行)に関連記事がありますので一読いただければ幸いです。

サービスの質(2)  100419

  • Posted by: 田中 昇次
  • 2010年4月19日 18:03

サービスの質(2)

だいぶ長いこと、この欄をサボってしまいました。またお付き合いいただければ幸いです。
以前、風呂の使い勝手を除くと旅館のほうがサービスがよい、と書きながら話が少しそれて戻らなくなりました。

ホテルは各部屋に風呂場があって、普通はそれを利用します。旅館は一般的には部屋に風呂場がなく、その代わり、たっぷりとした湯量の湯船がある、共同で利用する風呂場があります。温泉の場合には、「たっぷりとした湯量の湯船」が広々としていて、洗い場も10人以上のスペースがあるのですが、昨年利用した旅館のそれは3人分と狭く、湯船も家庭用よりちょっとだけ大きい、一人用だったのです。廊下側に時間を書いたボードがあって、予約をするスタイルでした。
実は、田中はそれほど風呂につかることにこだわりません。入浴について精神的な効用をうたう場合がありますが、湯船につかってのんびりと歌をうたうという趣味もありませんし、温かいシャワーさえあれば十分にリラックスできます。でも汗を流すために風呂に入るなら、できれば自宅よりずっと広いスペースで、支払う金額分に見合った満足感を得たいといういやしい気持ちも持っています。
昨年はその点で、ちょっと残念な結果でした。料理の内容や食事のときのサービスなどは、かゆいところに手が届くという言葉通りにすばらしいものでした。翌日のスタート地点へはタクシーを呼んでもよかったのですが、旅館の車で送ってくれもしました。大満足です。

田中はニーズと期待の違いを次のように説明しています。ニーズは満たされていて当然、満たされていな場合には苦情・クレームとなる。一方、期待が満たされていなくても苦情・クレームにはならないが、満たされている場合には大満足となる。今回、風呂の点では不満足でしたが、それ以外は大満足でした。

田中が作成した規格解説では、次のように書いています。
顧客満足は、顧客がどう受け止めているかを組織側から推測するのではなく、事実(情報)を収集することが重要である。不満・苦情の意思表示がなくても、それは満足していることと同一ではない。
今回、田中は風呂場が狭くて残念だったと旅館に伝えたわけではありません。サービス業って大変ですね。
かくいう田中の業種も同じです。コンサルティング内容や結果に対して苦情や不満を述べてくださるお客様はありがたいのです。苦情も来ないけれど、次の仕事も来ないというのでは困ります。

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