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天地明察  100903

  • Posted by: 田中 昇次
  • 2010年9月 3日 13:30

天地明察(渋川春海/安井算哲)

昨年の本屋大賞に選ばれた小説で、渋川春海、安井(保井)算哲という複数の名前をもっていた人物が主人公です。

この小説が現在、科学博物館のボランティア仲間で人気です。田中は貸していただいて読みましたし、図書館に貸し出しの予約をしている方もいます。渋川春海が製作した天球儀や地球儀、息子の名前で作成した「天文成象図(星図)」が館内に展示してあるからです。渋川という名前は天文学者(長期にわたって天体観測をし、正確な暦を作成する)という立場、安井(または保井)算哲という名前は碁方(将軍の前で本因坊家と囲碁を戦ったり、江戸城内で要職者に囲碁の指導をする)という立場で使い分けていたそうです。神道の知識ももち、コペルニクス同様マルチタレント人間だったようです。

小説は四代将軍家綱から五代綱吉にかかる時代に、渋川春海(1639年生―1715年没)が、和算で有名な関孝和にヒントをもらいながら、貞享暦という、当時としては最良の暦を完成させていく過程を描いているのですが、田中は、主役だけでなく、大老の酒井雅楽頭(うたのかみ)忠清や高遠/会津藩主の保科正之などに興味を持ちました。

当時、政治の実権は幕府が握っていたわけですが、形式上朝廷をたてまつるという微妙なバランスの中で、暦の決定権は朝廷側(土御門家)にあったようです。そういう時代背景の中、酒井忠清や保科正之は着々と準備をし、渋川春海という有能な人物を重用し、改暦事業を進めたのです。徳川光圀も登場します。

9001規格の5.3項(品質方針)には「組織の目的に対して適切」という言葉があります。また、規格序文には「組織内において、望まれる成果を生み出すために」という言葉があります。この「望まれる成果を生み出すために」は2008年版で追加された重要なフレーズなのです。自分たちの組織は本来どのような目的でスタートしたのか、現時点では何が目的なのか、どういう事業で社会に貢献するのか、利害関係者(複数)は自分たちにどのような成果を望んでいるのか、何をすべきで何をしてはいけないのか・・・・を考えることがQMSの原点だと述べているのです。

酒井忠清や保科正之の時代にマネジメントという概念などはなかったでしょうが、小説を読み進む中で、彼らは見事に9001の精神を持っていたように田中は感じました。
幕府としては、国全体を安定させ、武士・町民・農民の不満が爆発しない状況を維持することが最重要の課題であったでしょう。暦通りに日蝕や月蝕が起きれば、さすがお上はすごいと信頼されるのですが、暦通りの現象が起きなければ信頼感は薄くなります。当時は渤海国経由で中国(唐)からもたらされた宣明暦を使っていたのですが、800年経つ間に少しずつのズレが2日分になっていたそうです。
朝廷側には正しい暦を作成するのに必要な天体観測技術・実績がなく、中国の暦を追認するだけでした。まず正しい暦の製作に不可欠なデータ収集が必要でした。何年にもわたる準備が必要で、自身が権限を持っている間に完成しないかもしれないが、幕府としてはなんとしてでも完遂しなければいけない事業として推し進めていく様子は、まさにマネジメントそのものだと感じました。

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